JIT(Just In Time)の正しい考え方
私は以前、自動車関連のTier1、Tier2メーカーに部品を納めるメーカーにいました。下請体制ではなかった事もあり、それほどJIT納入の悪影響を受けてはいませんでしたが、納入先のバイヤーからは納期に対する、いわば恐怖感に近い愚痴を聞いていました。
Just In Time=ジャストインタイム=ズバリその時間に
自動車の組み立てラインにおいて、必要な部品が、必要な時に、必要な量だけ供給される事を求めたサプライチェーン(部材供給の連鎖)をジャストインタイムと言います。物理的には、運搬・検品・段取もあるので在庫はゼロにならないのですが、理論上の在庫ゼロを狙った考え方です。
下記図のように運搬を無視した場合、JIT方式のサプライチェーンと、何もコントロールをしないサプライチェーンとでは、全体のリードタイムが大きく違ってきます。
物の開発サイクルが早くなっている現代において、リードタイムが短いという事はあらゆる面でメリットがあります。
- 開発から流通までの期間が短くなる
- デッドストックのリスクが減る
- 在庫コストが下がる
- 人件費が下がる
- 納期対応力が上がる
しかし、実際の現場を見ると、JITを達成するために無理が生じる為、その無理を解消するための在庫が生まれているのが実情です。
仮に、完成品メーカーへ5/20に100個完納するためには、5/19に100個完成すればよいのでしょうが、そんな綱渡り的な生産をするメーカーは存在しないでしょう。大半は5/17頃に完成する日程を組みます。加えて、不良等により欠品しないように103個分の材料を流します。結果的に不良はなく103個完成します。つまり、2日間の在庫停滞期間、3個の不要在庫が生まれる訳です。
ただ、これを否定してしまっては、ものづくりは出来ないでしょう。しかし、これを否定することをJIT方式だと勘違いしている方も多くいらっしゃいます。そして、JITなんて無理、うちには関係ないという結論に至ってしまいます。
JITは改善の基本理念
JITは生産性改善をする上での基本的な考え方です。例えば、事務仕事でも同じです。以下は貿易関係会社の営業部での会話です
5/6 部長:A君、5月20日の営業会議までに、例の企画のプレゼン資料を作っておいてね
A君:分かりました!(少し余裕をもって資料を集めよう…)
5/8 A君:営業部の皆さん、2日後の5月10日までに見込客のリストを出して下さい!
(営業部員:え!そんな急に言われたら、今やっている仕事は後回しにしないと...)
5/15 A君:部長、少し早いですが、プレゼン資料が完成しました。
部長:ありがとう。仕事が早いね。見込客に抜けがある気はするが・・・
5/17 部長:A君、昨日、アメリカの輸入関税のニュースが流れていたが、見込みに影響は?
A君:Z商事とY貿易は大幅に仕入れ量を減らすでしょう。資料を作り直します…
これって生産的でしょうか?ある工程の納期を間に合わせる為に、無理をしている工程があります。しかも、プレゼン資料は営業会議当日までの5日間も眠ったままです。あまりにも早く作り過ぎた為、追加情報により作り直しが必要になりました。もちろん、営業会議の直前に完成させることが正しいとは言いませんが、間違った仕事のやり方ですよね。
つまり、この例を改善するとすれば、
- 5/20の営業会議はずいぶん前から決まっていたはず。部長はもっと早く指示を出す。
- A君は自分が適正に作業できる期間(5日間ほど)を見込んで、営業部員に適正納期で依頼をだす
- A君は営業会議の前日~前々日に部長へ提出する
より有効かつ適正な情報を各工程に与える事で、無駄が無く正確な仕事になります。
つまり、各工程に対して、有効な情報を適正なタイミングで与えていくことが「ジャストインタイム」の考え方です。仕事をスムーズにするためには、いくらかの在庫は必要であるし、納期に余裕を持たせることも必要です。
ものづくりおいては、生産指示(何を、何個、いつ作れ!)をどのように出すかが全てです。有効かつ正確な生産指示を出すためには、
- 材料納期
- 工程の標準リードタイム
- 標準リードタイムを達成できる人員教育・訓練
- 人員計画
- 長期の需要動向
- 不良・停止が頻発しない工程
など様々な情報や設備、仕組み、ルールが必要になってきます。これらが無いのに、指示を出したところで、指示通りに工程が進むことはありません。現場改善とは、指示通りに工程が進むように人・物・仕組みを整備していくことです。
その基本理念になるのが「ジャストインタイム」です。
もし、上記1~6が御社になければ、まずはその整備から始める必要があります。
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